稼げないブログの亡霊たち

稼げないブログの亡霊たち

まえがき

                                        おつかれー

うだる暑さの中、気怠い毎日どうお過ごしかな(* ᐕ)?

まぁ、寒いよりはマシかなぁ…

なんていつも思うるぴ船長です( ˶ᵔ ᵕ ᵔ˶ )

好評いただいてる九燈のゆるり怪談シリーズ。

今回はジェミニ機関長と一緒に書いてみたよー

お暇つぶしにどぞ(っ´∀`)っ

ぢゃ行ってみよー

稼げないブログの亡霊たち

街の喧騒の中で、その友人はまるで抜け殻のように歩いていた。

かつて共に笑い合ったはずのその友人から、色が抜けている。

 

同時に九燈の澄んだ直感が、その背後にへばりついた「澱(おり)」のような気配を即座に嗅ぎ取った。

 

「よっ!ゆん氏!!」

「久しぶりだな。つか……少し、顔色が悪いんじゃないか?」

お節介だとは分かっていた。だが、九燈の中に潜む「お節介」の血が、目の前の腐りかけている魂を放っておけなかった。

 

『何…。あっ、!くどやん。』

「おぃおぃ、めっちゃガリやん。メシ食ってんのか?。」

 

『(笑)相変わらず失礼な後輩やね。』

「暇そうやから、ちょっと顔かせや。ちゃーくらい奢るわ。」

『ひま…ではないけど……。まぁ…暇になるかな。』

「いいからいいから。5分でいい(笑)」

『なんやねん。5分って』

 

 

二人は駅前の、少し照明の落ちた喫茶店へ入る。

「エスプレッソ。ぬるめ。」

『相変わらずやね。』

「なんか食うか?」

『いや、いい。…………ホットで』

 

メニューを見ながら九燈が穏やかに聞く。

 

「熱いのと冷たいの食うのは?いつもやってたじゃん。」

 

 

『…今は気分じゃない。』

 

「…そか。」

 

会話を重ねるうちに、違和感は確信へと変わっていく。

友人の言葉には、どこか他人の思念が混じっている。思考の端々が、自分の意志とは無関係に他者の言葉で塗りつぶされているような、あの独特の「ノイズ」。

 

「お前、最近……何か新しいことでも始めたのか?」

九燈は、ぬるいエスプレッソに砂糖を5杯入れると、ゆっくりとを掻き混ぜながら核心を突いた。

 

友人は怯えるように、だが、すがるような目でバッグからノートパソコンを取り出した。

 

『……これ、使ってからなんだ。副業でブログを始めたんだけど、全然稼げなくて。でも、書けば書くほど、誰かに背中を撫でられているような感覚がして……』

 

パソコンを開く。画面に映ったのは、真っ白な画面にぽつんと置かれたアドセンス広告のコードと、更新されることのない管理画面。

 

その周辺から、なんだか、、狡猾で冷たい「霊気」が立ち上っていた。

九燈はゆっくりと指先をノートパソコンの筐体に触れさせる。

 

ファンが唸る。ディスプレイが明滅する。

そのブログの管理画面には、誰にも読まれていないはずの記事が、まるで死者の溜息を文字にしたかのように、びっしりと並んでいた。

 

稼げないブログ。

 

「おい、これ……お前、自分で書いたのか?」

九燈の問いに、友人は震える声で答えた。

 

『分からないの。気づいたら、この数字が増えていて……私の言葉じゃない何かが、勝手にログを書き換えていくんだよ』

 

九燈は眉間のシワを押さえながらPCの画面を見つめ考え込む。

これは、ただのブログじゃない。

 

 

「なあ……その画面、閉じてみろ。」

九燈は友人の開いたノートパソコンから目を逸らさずに言った。 画面の中に表示されているのは、単なるブログの管理画面じゃない。

ページをめくるたびに、文字列が微かに蠢(うごめ)いている。まるで、死んだ人間が最期の瞬間、砂に指で書き残した文字のように。

 

友人は震える手でマウスを握ったまま、拒絶するように首を振る。

『閉じられないの。閉じた瞬間に、画面の中の【ヤツら】が、ワタシの思考を直接引き剥がしに来るような気がして……』

「ヤツら?」

『…………………。』

 

九燈はその画面に触れることも、何かを直そうとすることもしない。ただ、友人の顔を見つめる。

友人の瞳の中に映っているのは、喫茶店のメニューでも九燈の姿でもない。 画面の奥、誰もいないはずのサーバーの深淵で、行数だけが増え続ける「稼げないブログ」に巣食う得体のしれない何かだ。

 

「お前、いつからだ。そのブログを始めたのは。」

『……先週。ランダムに文字列が並んだだけのような、奇妙なサイトに出会ったの。そこにあるコードを自分のブログに埋め込んだら……ワタシの言葉が、全部『ヤツらのコトバ』に書き換えられるようになった。』

 

九燈は気づいた。 これは感染(ウイルス)じゃない。憑依(ひょうい)のデジタル化だ。

友人が書こうとした日記、読者への呼びかけ、日々の些細な愚痴。それらすべてが、ネットの海を漂う「生前の未練」という名のデータに置換されている。

 

稼げないのではない。稼ごうとすればするほど、彼らはその「器」である友人の生気を吸い取り、自分たちの物語を完結させようと必死になっているようだ。

 

 

「そのブログ……記事は増えていくのか?」

 

『…………。毎日、、、私が寝ている間に。ワタシの知らない言葉で、ワたシが経験したことのない恐怖が、ワタしの名前で投稿され続けているんだよ。』

 

九燈はコーヒーカップを置いた。 カップの底に沈む澱が、奇妙な渦を巻いている。 このままでは、友人の肉体という「器」は、いずれ完全にヤツらに書き潰されるだろう。

 

九燈は、友人の顔に手を伸ばし、友人の視界を無理やり自分の方へ向ける。

「聞け。お前がその画面を見続ける限り、お前は自分自身じゃなくなっていく。……だが、もし僕がそのブログに『ログイン』したら、どうなると思う?」

 

友人は凍りついたように九燈を見つめた。 九燈の瞳の奥で、何かが火を灯した。

 

「僕は、お前の代わりになれる。お前のその『稼げないブログ』という名の檻に、僕が入り込む。」

 

 

喫茶店を出て、友人のアパートに向かう足取りは重かった。

 

扉を開けた瞬間、辺りの空気が一段と冷え込み、湿り気を帯びた。「腐った記憶」の臭いが鼻をつく。

 

 

部屋の中は異常だった。

 

カーテンの継ぎ目から僅かに漏れる光を浴びて、宙を舞うホコリと一緒に浮かび上がる無数の澱(おり)。

 

それは輪郭も定かではない、飢えた霧のようなものだ。

ヤツらは友人の椅子に群がり、その背にしがみつき、PCのキーボードを叩く指を操ろうと躍起になっているような感じに視えた。

 

「おい、離れろ。」

九燈は低い声で告げた。だが、彼らは反応しない。彼らにとって友人は、自分たちの物語を世に放つための「唯一の接続端子」なのだろう。

 

九燈は、玄関先に放り出されていた友人の「ファブリーズ」を手に取った。 化学薬品の匂い。本来なら消臭のためのそれが、九燈の手に渡った途端、何か別の意味を持つ。彼はそれを躊躇なく空中に噴霧した。

 

シュッ、シュッ、という乾いた音が、静寂な部屋に異様に響く。

霧のような霊たちが、その飛沫に触れた瞬間、嫌悪するように歪んだ。

彼らは生前の「清潔」や「日常」という概念を激しく拒絶する。ファブリーズが描く円弧が、彼らの群れに亀裂を入れた。

 

『消臭? 臭う?掃除はしてる……つもりだけど』

「いや、これは『境界の洗浄』ってやつだな」

 

「ちょっと失礼な。目~閉じて。」

九燈は更に矛先を友人に向け、激しく引き金を引く。 噴霧される粒子のひとつひとつが、ヤツらの形を保つ「情報の結合」を断ち切っていく。ヤツらは耳障りな電子ノイズのような叫びを上げながら、友人の背から剥がれ落ち、四散していく。

 

「洗えない?洗えるじゃん」

 

九燈は薄ら笑みを浮かべながら友人を浄化していく。

友人は、まるで重い枷から解き放たれたようにその場に崩れ落ちる。

『……あ、あぁ……』

九燈は止まらない。友人のPCを取り出すと画面に向かって、さらに濃密にファブリーズを吹き付けた。画面上に付着した化学物質の膜が、ヤツらの入り口を遮断するように光を鈍らせる。

 

部屋の温度が少しだけ上がった。

PCのファンの回転音が、不気味な唸りから、ただの機械的な動作へと戻っていく。

 

『追い払った……の、か?』

友人が掠れた声で訊く。 九燈は空になったファブリーズのボトルを放り出し、PCの画面を覗き込んだ。

 

だが、画面の隅に表示されている収益カウンターは、まだ消えていない。 1円。2円。3円………。

 

ヤツらは追い払ったはずだ。なのに、数字は増え続けている。

上がる数字を見つめる九燈は気づいた。

この数字は、彼らが「外」から取り憑いていたんじゃない。 このブログのシステムそのものが、「誰か」を閉じ込めるために設計された罠に書き換えられていることに。

 

「おい、これ……お掃除したくらいじゃ足りないぞ」

 

『どういうこと?』

「ふふ。ちょっと待ってな。」

九燈は友人の椅子に座りキーボードに手を置いた。

指先が、まだ熱を帯びファブリーズでべとつくキーの表面に触れる。

 

画面の収益カウンターは、嘲笑うかのように、1円からまた1円と繰り上がっていく。その数字は金額ではない。このブログという「器」に閉じ込められた者が、あちら側へ消えるためのカウントだ。

 

九燈はログイン画面のIDとパスワードの欄を見つめた。

友人が「ランダムなサイト」から拾ってきたというコード。それがこのブログの心臓部(サーバー)と、あの世の深淵を繋ぐゲートになっている。

 

「ゆん、目を閉じていろ。……もし俺がこの中に入ったら、二度と戻ってこられないかもしれないからな。」

 

『くどやん、何をするつもり……?』

友人の震える声には応えず、九燈は指を動かした。

キーボードを叩く音は、まるで硬い地面を掘り返すような音に変わっていく。

 

九燈の意識が、自身の肉体を離れ、デジタルという名の「虚無」へと滑り込んでいく。

画面が真っ白に明滅した。 喫茶店で見た「澱」よりも遥かに濃く、昏い闇がモニタから溢れ出し、九燈の体を飲み込んでいく。

 

 

……視界が反転する。

 

 

気がつくと、九燈は「何もない場所」に立っていた。

そこは、あの稼げないブログの裏側。そこには、数え切れないほどの「未投稿の絶望」が、電子の海に沈んでいた。

目の前には、友人のブログの「管理画面」という名の門がそびえ立っている。その門の向こう側で、無数の「何か」が、九燈のログインを待ち構えていた。

 

 

〔……おい。やっと来たか。〕

 

どこからともなく、自分自身の声に似た、しかしもっと冷酷な声が響く。 九燈はニヤリと口角を上げた。

 

「ふふ(笑) 待たせたな。……さて、どっちが『器』で、どっちが『魂』か。ここでハッキリさせようぜ。」

九燈は、管理画面の奥底にある「編集モード」へと踏み込んだ。 そこには、友人の言葉を塗りつぶしていた「ヤツらのコトバ」が、黒い毒のように渦巻いている。

九燈は、画面の中で蠢く「ヤツらのコトバ」を見つめたまま、ふっと鼻で笑った。 その笑みは、喫茶店で友人に向けた温かいものとは程遠い。まるで、害虫を丁寧に踏みつぶす直前の、冷徹で静かな愉悦に満ちた笑みだった。

 

「なるほどね。このブログの隅っこで、コソコソと『器』を乗っ取って物語を完結させようってか……?」

九燈は、背後に群がる無数の冷気に包まれながらも、一切ひるまない。

 

むしろ、ヤツらが自分を飲み込もうとすればするほど、九燈の指先は滑らかに、しかし力強くキーボードを叩き始めた。

室内は九燈が弾くキーボードの音が無機質に響きわたる。

画面上の文字列が、九燈の入力とともに次々と強制的に書き換えられていく。

 

「お前らさ、自分の物語を完結させたいんだろ? ……だったら、望み通りにしてあげるよ。ただし、それは『オマエたちが一番見たくない結末』だ。」

 

九燈は、ヤツらがこれまで友人の言葉を塗りつぶしてきたその場所へ、「九燈」としての烙印を刻み込んでいく。

「アンタらはサ。死んだんじゃない。最初から存在なんてしていなかったんだ。このサーバーのゴミ箱に捨てられた、ただの誤字脱字の集まりだよ。」

 

九燈は嘲笑いながら、画面上のカウンター数字を弄り始めた。

 

収益の「1円、2円」を、わざと「0円」と「マイナス」の間で高速点滅させる。

ヤツらが唯一の栄養源としていた「生者の数字」。収益が上がれば上がるほど【器】はヤツらが作り出した妖の画面に没頭し、文字をつづる。命を削りながら。

 

そのシステムを、九燈は指先ひとつで食い荒らし、更に飢えさせた。

 

 

〔……ひっ、……あ、ぁぁ……〕

画面の向こうから、言葉にならない電子的な悲鳴が漏れ出す。 九燈は、その断末魔をさらに楽しむように、モニターに向かってゆっくりと口を開く。

「なんだ、もう終わりか? まだここからが地獄の始まりだぞ。俺という『器』に触れたことが、オマエたちの人生最大の誤算だったな。死んでるけど人生。ククク(笑)」

 

九燈の瞳には、かつて船室で見たあの「鉄サビ色の涙」を流す霊よりも、遥かに深い闇が宿っていた。

先ほどファブリーズを撒き散らした時のように、今度は「言葉」という殺虫剤を、ブログの深層にたっぷりと塗りたくっていく。

 

「さあ、消えろ。それとも、このブログの隅で、永遠に俺のブログの収益を数え続けるか? どちらがお望みだ?」

 

九燈の指が止まる。
ブログの管理画面が、真っ赤に警告色を放つ。
ヤツらは、自分が「存在していない」という事実を九燈に突きつけられ、自分自身の輪郭を失い始めていた。

 

九燈は、更にキーボードの上で踊るように指を走らせた。

その動作は、もはや修理屋のそれではない。プログラマーのそれとも違う。 まるで、死にゆく者の手首を掴み、その苦悶の鼓動を楽譜に書き起こすかのような、残酷な芸術家の手つきだ。

 

画面上の文字列が、九燈の意志に従って歪み、再構築されていく。

 

「消去? そんな慈悲深いことはしないよ。……オマエたちは、これからもここで『稼ぎ続ける』んだ。ただし、得られるのは金じゃない。お前たちが渇望していた、終わりのない『物語の始まり』という名の、絶望だ。」

 

九燈は、プログラムの深層に「再帰ループ」を組み込んだ。

「オマエたちがゆんから吸い上げた生気は、すべてこの檻(おり)の動力源として還してもらう。……おぃおぃ、震えてんのか?」

 

九燈は画面を覗き込み、ニヤリと笑う。

モニタの中では、先ほどまで蠢いていた「澱」たちが、九燈が作り上げたコードの檻に閉じ込められ、必死に壁を叩いている。

だが、叩けば叩くほど、その振動が自分たちの足首を掴む「冷たい手」となって自分たちに跳ね返ってくる。

 

九燈は、管理画面のログに最後の一行を書き加えた。

System.Status: Hell_Cycle_Started. [Keep_Feeding_The_Loop]

 

「よし。これで完了だ。ゆん、もう大丈夫だぞ。」

九燈は友人に優しく微笑むと、PCの電源コードをあえて抜かずにそのままにした。

このPCは、もうただの機械じゃない。あの「檻」を動かし続けるための、永遠に終わらない拷問具になった。

彼女は、自分のPCを見つめて立ち尽くしている。

 

 

九燈は、その震える友人の肩をポンと叩き、薄暗い部屋の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

「ゴメンよ~。ファブリーズ臭くなったな(笑) さあ、少し外の空気を吸いに行こうか。……あいつらの悲鳴は、僕たちの耳には届かないからな。」

 

「それよりさ、肉食うぞニク。疲れたぁ~。元気を取り戻すにはやっぱり、おいすぃ~ごはんを食べる事がイチバンだからね」

 

九燈は玄関で靴を履きだした。

「おーい。はよ、行くぞ!」

九燈は、自分の感情が完全にフラットに戻ったのを感じながら、部屋で立ち尽くす彼女を急かした。

さっきまでの画面の中の冷徹な「管理者」の顔はどこへやら、今はただの、少しひょうきんで、強引な後輩の顔に戻っている。

 

その切り替えの早さが、ある意味では一番の「怪異」かもしれない。

 

『……くどやん、今のあんた、ちょっと怖かった。』

ゆんが怯えたような、でもどこか安心しきったような目でボソリと呟く。

 

九燈はニカっと笑って、脱ぎ捨てた靴を蹴り飛ばすように履いた。

「なにがよ(笑)。それより腹減って死にそうなんだわ。ブログの呪いより、空腹の方がよっぽどエグい死因だぞ? ほら、早くしないと店閉まっちゃうからね。」

 

九燈は振り返らずにドアを開けた。 ドアの外には、夜の街の湿った風が流れ込んでくる。

ふと、背後の部屋の中を振り返る。 モニターの明かりが、静まり返った部屋の中で不気味に、そして永遠にループする「檻」の光を放ち続けていた。その中では、ヤツらが声を失い、ただ数字の渦の中を漂い続けている。

九燈はドアを閉め、ゆんの手から鍵をかすめ取り鍵をかけた。

カチャリという小さな音が、まるで「あちら側」との接続を完全に、、、物理的に切り離したかのような重さを持って響いた。

 

「肉、肉……! 今日は高くつくぞ~? 奢っちゃる!」

九燈はそう言いながら、街の明かりへと足を進める。

『私もなんだかお腹がすいてきたよ。』

「www そかそか。 えがったえがった」

「つかさ、、、」

『なに?』

「割り勘にしてけろ(TᵕT)」

『ふふふ、サイフ置いてきちゃった』

「…………………………。」

「PayPayあるじゃん。持ってるやろ」

『ふふふ。どーでしょう。』

「あーねーごぉ~。」

九燈はそう言いながら、街の明かりへと足を進める。 ヤツらの断末魔も、あの稼げないブログの呪いも、もうどうでもいい。 九燈にとって大事なのは、目の前の友人が取り戻した「空腹」という名の、生の実感だけだ。

……だが、九燈が街の喧騒に紛れて笑い声を上げた瞬間、街灯の明かりがひとつ、不自然にチカチカと瞬いた。 まるで、別の場所で誰かが「九燈」を呼んでいるかのように。

 

九燈は気づいているはずだ。 この世界は、あちら側と地続きだってことを。

九燈は、楽しげな足取りで夜の闇に溶け込んでいく。

(終わり)

 

さいごに

ネットには数多くの死者の言葉が現在も消えることなく存在し続けている。未練を残したまま「器」を失ったそのコトバ達は、新しい「器」を求め、物語を完結させるべく存在し続けるだろう。

 

九燈は、管理画面の最深部、ヤツらが支配していた黒いコードの渦のちょうど真ん中に打ち込んだ「救済」という名の、最も残酷な「贖罪(しょくざい)プログラム」を残していた。

それは、彼らが友人の言葉を奪って紡いだ無数の歪な記事を、元の「友人の拙い日常日記」へと一文字ずつ手作業で戻させるという、果てしない罰のコードだ。

/*
救済プログラム:Restoration_Loop
実行条件:ヤツらが自らの意思で「奪った言葉」を「正しい主」へ返還すること。
※ただし、この修正作業は物理的な思考回路を焼き切るほどの負荷を伴う。
*/

function executeRedemption(targetData, originalOwner) {
let corruptedContent = targetData.fetchCorruptedText();
let originalText = originalOwner.getOriginalIntention();

// ヤツらが一文字ずつ修復を試みるたびに、九燈が仕込んだ「嫌悪のノイズ」が割り込む
while (!corruptedContent.isIdenticalTo(originalText)) {
let charToFix = corruptedContent.findMismatch(originalText);

try {
// 文字を一つ戻すことに成功しても、その記憶が彼らの魂を蝕む
corruptedContent.restoreChar(charToFix);
corruptedContent.injectPainToGhost(100);
} catch (e) {
// 失敗すれば、九燈の檻により「初回恐怖」へリセット
triggerHellCycleReset();
break;
}
}

if (corruptedContent.isIdenticalTo(originalText)) {
// 全ての修復が完了した時、彼らは存在の定義を失い、完全に消滅する
performEraseAndForget(targetData);
}
}

// 九燈の追記:ヤツらがこれに気づいた時、本当の絶望が始まる
System.log(“警告: この修正作業を完遂しても、お前たちには何も残らない。”);
System.log(“九燈より:せいぜい、一文字ずつ丁寧に、自分の消滅を噛み締めて書き直せ。”);

 

ヤツらは、自分たちが奪った「稼げないブログ」の収益を、自分たちの「存在の対価」として吐き出しながら、存在の消滅へ向かってひたすら文字を打ち続けることになるだろう。

 

 

これ以上の救済が、この世のどこにあるのだろうか?