怖い話第1話 ホラー小説書いてみた。ちょっと笑えるマイルド系です。

怖い話第1話 ホラー小説書いてみた。ちょっと笑えるマイルド系です。
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第1話

深夜の散歩

ドアを閉めて…そっとカギをかける。

 

音をたてないよう慎重に歩き出しながら煙草に火を点けた。

深夜の住宅街………

辺りはすっかり寝静まり、狭い道をゆく自分のサンダルと古いアスファルトが擦れる音だけが微かに響く。

最近やっと夜も暖かくなり、快適に深夜の散歩ができるようになってきた。

 

虫が鳴く季節になると滲んだ汗でさすがに散歩後の寝付きが悪い。

シャワーを浴びようにもスヤスヤ眠る我が子らを起こしてしまうと…
いつも機嫌が悪そうにしている妻の逆鱗の更に根元部分に深く触れてしまうだろう。

……考えるだけで恐ろしい。

 

気持ち良さそうに眠る我が子らの首元に顔を埋め、ぷにぷにとした癒しの感触を味わいながら
ヤツらの熟睡度は確かめた。

妻もスマホを握りながらではあったが…
寝落ちのサインである〖歯軋り〗を始めたのでしっかり熟睡してい………た。と、思う。

多分、この様子だと何も無ければ2時間くらいは家を空けて散歩しても大丈夫だろう。

 

深夜の大脱出の計画に抜かりは無いか確かめながら街灯乏しい夜道を大通りまで歩く。

ネコ以外ほとんど誰にも会わない。
たまにタヌキがゴミを漁りに山から降りてくる程度。

 

近所の公園の休息場で学生らしき年頃の若い男性がスマホを弄っていたくらいか。

夜も眠らずに女のケツばかりを追っていた二十代前半の記憶が懐かしく蘇った。

 

大通りまで出れば多少明るくなり、
行きつけのコンビニで切れかけていた煙草を買い足し、目的地に向けて3号線沿いを約30分の道程。

 

無風。

 

国道ではあるが
世の中は寝静まる時間帯ゆえ、
この時間帯に見かけるのは代行運転の車か割増のタクシー、深夜の長距離トラックくらい。

ソイツらが自分の側を通り過ぎる際に起こしていく生温い風が時おり排気臭いが心地よい。

 

今は自分にとって眠る時間を削って捻出している貴重な自由時間。
ストレスフリー。

 

行先も歩調も臭い煙草も口を出すヤツはいない。

 

アタマを空っぽにしてサンダルの底をズリズリやりながら
人気の無い薄暗いオレンジ灯の国道沿いを歩く。

 

裏道を使っても良いが…
暗い夜道はいろいろと面倒な事が起きやすいので
少し遠くはなるが、この3号線沿いのルートをよく使う。

 

日中は忙しなく行き交う車両やバスが道を埋め尽くし通行人が絶えないこの道も
今の時間帯は…4車線直線の広い視界スペースからソレらが全て消え失せ、
しばらく一切の音が消えて無くなる時がある。

 

そんな時はいつも
「この道、この空間、この瞬間は今、自分だけのモノだ」と妄想し、
ソレによって得られる少し不思議で程よい幸福感と優越感に浸りながら
自由な足取りでランダムに進める一人無音なこの時が、何かといろいろ自由を制限されがちな日々の中で多少なりとも癒しの芽を感じ穫る事ができる特別な時間だった。

無音に少し慣れて孤独感が襲い出す頃
遠くからヘッドライトが徐々に近付いてきて排気と突風を浴びせて過ぎ去っていき程良いタイミングで人間界へ連れ戻してくれるのも勝手が良い。

 

 

いろいろ身勝手に妄想しながらしばらく歩くと、
遠くの方でぼんやりと白光を放つ目的地の看板がみえてくる。

〖芦掛温泉 交差点を右折 800m 営業 深夜3時迄〗

まだ遠目に妖しく光って見えるだけで文字が読める距離ではないが、
見慣れた看板なので脳裏にはデカデカといつもの看板文字が表示されている。

今引き返せば…
明日妻からもし『夜中どこに行ってたの?』と唐突に問われても無難に「煙草買い」と答えられる距離なのだが………

これから先に行けばどう言い訳しようか…

 

クソマジメに「温泉」と答えれば…その後がめんどくさくなるような気がする。

『ふーん』とそのまま聞き流してくれたら良いが、
我が子らの突発的な夜泣きや彼女の朝の寝起きの機嫌次第では、
ただでさえ多い日々の嫌味や溜め息の回数がしばらく増加してしまうかもしれない。

 

 

いろいろ対策を練り、ヒヤヒヤしながら考える事数分…

………ふと我に返る。

 

気が付けばもう温泉の看板が目前で煌々と光を放ち夜目には眩しい位置にいた(焦り)。

不思議な事に…
看板の明かりを視界に入れながら進んでいたはずが…
我に返るまで少しも眩しいとは思わなかった。

……しばらく看板のある交差点で停滞し熟考。

 

 

「ここまで来たら…もぅ行くしかないっしょ!(焦り&勇気)。」

明日のことは明日考えて乗り切ろうと強引に決意を固め交差点を曲がる。

坂道

……………………

…………

……

…………坂道。

交差点から脇に入ると一瞬で辺りは暗くなり星空が現れる。

街の灯りも交差点の信号機が見えなくなるくらい進めばポツポツと次第に少なくなっていく。

まだそよ風すらも起きず車も通らない…
さすがに背中がジトッと汗ばんできた。

 

道はもうかなり暗い。
段々と心細くなってきた…。

気分転換に陽気な音楽と共にテレビで放送されていたウォーキング…ナントカ流の自分には恥ずかしいカッコで行う歩行術を道端で実行してみる。

 

ア~ンドゥ~トワッ!バチン!(頭上で手を叩く)

あ~んドゥ~トワッ。パチン(頭上で手を叩く)

ア~んDoトゥわッ。パチン

……………ドゥ………永遠っ。………ピチン

………………。ピチッ。

 

………。

5歩で飽きた。

恥ずかしいのと飽きるのと息があがってダルいのと…………いろんな後悔が襲ってきた。

恥ずかしい行動を他人に見られてないか周囲の気配を探り、
気を取り直し煙草に火を灯け坂道をとぼとぼ歩いて行く。

「クルマで来ればよかったかな」

この道を歩く度、疲労感と心細さから毎回挫けそうになり吐く言葉…

(クルマで来ればよかったという事は特に気にしてない。)

………………………

………………

………

暗い坂道を3カーブほど登ると坂道は緩やかになっていき、古い住宅地が見えてくる。
道はいくつも枝分かれしながらだんだん狭くなり
〖チカン注意〗や〖犬糞持ち帰れ〗〖ゴミの地区外持ち込み禁止〗などのハリボテ看板を横目に見ながら更に坂の頂上付近にある温泉を目指す。

 

いつも通る道だが月に2~3回程度、
ましては隣町の夜道なのでハッキリとは道順を覚えていない。
スマホを取り出し数分おきにGoogleマップを開き道を確認しながら進んでいく。

毎回、周囲の景色を見ずにスマホに頼りながら歩くので道を覚えないのは承知の上だ。

 

………ソレとは別にスマホが必要な理由がもう1つあった。

この地区は、夜中でも変な輩が結構彷徨いていて、ソイツらを見分ける為にスマホのカメラが役に立つのだ。
見分け方は2種類。

〖写るやつ〗と〖写らないヤツ〗ら。

 

写るやつらはほぼ人間で基本的には無害(変質者、酔っ払い、悪ガキ、深夜徘徊以外)なのだが

写らないヤツらは………まぁ…面倒臭い類の者達だ。

 

 

自分は…視(み)える人。

 

調子が良い時(ある意味悪い時)はハッキリと人を見ている時と同じくらい鮮明に視える。

その視える相手というのが…

〖面倒臭いヤツら〗俗に言うオバケ、幽霊、念というヤツら。

 

霊能者の先生方(オバケの先生)には、
しっかり鍛えれば職業にできるくらい潜在しているものが強いから
人助けの為に修行しろと言われた事があるが、
修行する気など全く無い。

 

面倒臭いし。

 

ウォーキングナントカの健康術をたった5歩で諦めてしまうようなヤツに
本格的なオバケの特殊な修行なんて…
ダルそうだし長く続くハズがなかろうもん。

 

できることなら今から行く温泉で
昔、小学生の頃に先生の事をお母さんと呼んでしまった時の恥ずかしかった記憶や、

中学の時に英語の授業でSIX(6)の英単語の綴りを間違え、SEXと10回もクラス全員の前でデカデカと黒板に書き散らかしてしまった失態の記憶と共に
オバケの能力ごと一緒に綺麗さっぱり洗い流してしまいたいと思っているくらいだ。

この能力、自分の為に役にたったことはほぼ無いし、幼少の頃から怖かった経験しか覚えていない。

オトナになった今では自分なりに整理し
それなりに落とし所を見つけてから
ようやく慣れてきていたが…

事故か何かで顔がぐしゃぐしゃなグロ系の気持ち悪いのを不意打ちされて視てしまった時など…
さすがに数日は落ち込む。

ごく極めて稀に、
パチ屋の設定を変更する作業を行った際に店長の念がこびり付いたパチスロ台の椅子を能力で感じ取り、
最高設定の場所がピンポイントでわかる場合もあったが…
良い台を見付けても絶対勝てる保証はハッキリ言って無い。

我が子らが生まれてからは遊びや趣味に自分の時間を使えるなんて…ここ数年間はほぼ無くて、
この世のものでは無い者にいちいちかまっていられる余裕も無い。

早めにヤツらの存在に気付きシカトするのが一番ラクだ。

スマホを持ちながら歩くもう1つの理由は、
鮮明に視えていても人間か人間ではないか違和感が漂う判り辛いヤツを視界に捉えた際、
気付かれないようカメラを向けて画像や動画を撮影し、
スマホの画面にソイツらの姿が映るか映らないか確かめたいからである。

 

自分には経験上、念写系のチカラはない。

…カメラを使えば人間かオバケかの判断は確実にでき、
不測の事態が起こった際に人間用かオバケ用かの対処法を素早くとれるのだ。

 

これは思春期の頃、
車が行き交う交通量の多い車道を
周囲を全く気にせず歩いて横切るオバケの行動に何度も悩まされていた時期に編み出した対処法。

ソイツらは周りの人間と同じくらい鮮明に視えていたが、
ぶつかった車や人間はそのままヤツの身体をすり抜けて通り過ぎていき…
何事も無かったかのようにそのまま道路を横断して最後は建物の壁に消えて行った。

 

一番ヤバかったのは
車の接近を知らせながら慌てて近付きオバケだと気付くのが遅れ、
自分の方が轢かれそうになったことだ。

 

今では正直、妻の方がオバケより断然怖い…。

散歩中に何かトラブって帰りが遅くなれば
夜間の外出がバレたり
明日寝過ごして我が子らを幼稚園に連れて行けないミスを犯すと
妻の機嫌は数日間何やっても回復が難しいが状態になるだろう。

 

恐ろしい。

そんな恐ろしい事態を避けるためにも早期発見、トラブル回避は夜間散歩する際特に気を付けなきゃいけない。

…………

………

……

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スマホ片手にしばらく歩いていると小さな橋がみえてくる。

橋の長さは車3~4台分で
その下には人工の用水路があり
主に生活排水が流れる。

両端に小さな街灯があるので夜間遠くからでも橋の位置がわかる。

あの橋まで来れば温泉は近い。
目的の方角の空は温泉施設の照明によりうっすら明るく、
つられて足取りも段々と軽やかになる。

 

………橋に誰かいるようだ。

 

立ち止まってスマホのカメラを向け、最大までズームをして撮影してみる。

まだ遠くて小さな街灯の光量では性別まではわからないが、
写真には橋の途中にしっかり物体の反応が映っている。

オバケではなく確実に人だ。

 

今のご時世、勝手にカメラを向けた事が相手に気付かれると警察沙汰になりかねない。
自分の見えている対象を
同じくスマホのカメラが物体認識するだけで遠めでしっかりと映らなくても十分確認はとれる。

 

しかし、この時間帯に薄暗い橋の中央でひとりで何やってんのか…嫌な感じはするが。

 

この辺は高台だから夜景でも観ながら考え事でもしているのだろうとポジティブに推理しながら…
いつでも温泉までダッシュして逃げ込めるようポケットのスマホと煙草と小銭入れを肩に掛けたカバンにしまい警戒しながら橋へ近付いて行く。

 

橋手前の街灯に付近に差しかかる頃には長い髪形から女性である事がわかった。

部屋着の様なゆるめの服装で自分の予想通り夜景を眺めながら考え事をしている様だ。
近所の住民だろう。(おそらく無害)

その女性のすぐ後ろを通れば
警戒されて考え事の邪魔をしたら悪いので
反対側の歩道を歩くように道を斜めに横断する。

 

向こうもソレに気付いたらしく
顔がコチラを一瞬向いて視線があった様に思えたがスグ元の方向に戻り夜景を観ている。

背は少し高めで後髪を束ねたキレイな女性だ。

すれ違いさまに女性に声をかけて仲良くなりたい下心的な妄想を堪えながら
小さな橋の歩道に差しかかった頃、
一瞬で如何わしい妄想は消え失せた。

 

女性の隣りに誰かいる。

 

…女性の横顔を至近距離で覗き込んでいるように見える。

ソレが居る位置は女性の体で遮られた場所で近付くまで気付かなかった。

カラダの輪郭は人間の形状のように見えるが…影のように真っ黒だ。
夜の闇に同化して遠くからでは見え辛かったらしい。

女性は橋側の手すりに両肘付近を置いて下の街の様子を眺めているのだが、
ソイツは女性のすぐ真横に正面を向けて立ち、
上半身だけ横にくの字に曲げ
頭部と思しき場所は女性の顔の横にあるようだ。

人間には物理的に無理な立ち方で、
右の上半身は橋の手すりにめり込んでいる。

深夜にたまたまその女性を見付け様子を伺っているだけか、
元々女性に憑いているヤツなのかはまだこの距離ではわからないが…
ヤツがこっちに来てもし絡まれたら、危険度は結構高めだと直感は告げている。

 

これは絶対シカトだな。

関わると絶対に面倒臭い。

 

そう決め込んでソイツと目が合わないよう視点を前方に固定し、
ヤツの興味を引かぬようできるだけ自然な歩調を保って歩く。

だが…こういう状況だと見ないように視線を頑張って外しても、
焦点外の白目で見えている部分へ特に意識が行ってしまうものだ。

 

…嫌でも見えてしまう。

人間も意外と視野が広いという事を呪う。

 

ヤツのアタマは相変わらず女性の顔に触れるか触れないかの超至近距離にあるようでコチラには一切関心が無い様子だ。

平静を保ち頑張ってシカトしながら橋を歩き、
無事に彼女とヤツの後ろを通り過ぎ視界から完全にロストした。

何も無いまま無事に状況から抜け出せた事に安堵し肩のチカラが抜け視線が下方にさがる。

 

・・・ゾクッッ!!!

全身を貫くような激しい悪寒が突然襲ってきた。

 

コッチにきやがった!

……自分の顔の左側。……スグ横にヤツの顔がある。

暗闇に同化していて顔の輪郭はぼやけているが
目であろう灰色の穴をひとつ視界の端が捉えている。

もう片方の目はヤツの顔があまりに近過ぎて自分の視界の外にあるようだ。

心音がうるさい。
ヤツに聴かれているのじゃないかと思うほど心拍が騰っている。

………。

シカトしてこのまま去ろうにも…さすがに脚が前に出ない。

…。

こういう時は………一旦落ち着こう。

平静を装いカバンの煙草とライターを手で探り火を灯す。

……………タバコをつけても離れずまだ横に居るが
死んでも絶対目を合わせるものか。

 

視界を合わせずに煙草の煙をわざとキャツの顔の方へ溜息混じりに吹き出してみると…
顔の横から気配が消えた。

……………

……………行ったか。

 

ゆっくり振り返ってみるとヤツは女性の横にまた張り付いて女性の身体のほとんどが黒く覆われている。

橋の手すりに寄りかかりスマホを耳に当てながら残りを吹かし、
心拍が落ち着くのを待ちつつこの後の処遇を考える。

 

このままあの女性を放っておくべきか。

放っておけば…橋から飛び降りてしまうかもしれない。

これが最悪…警察沙汰になれば
自分、めっちゃ怪しまれそうな予感がする。

 

しかし夜道で1度すれ違った男が自分の方にわざわざ引き返し向かってきたら…
たぶん怖くて逃げてしまうかもしれない。

立ち止まり煙草を吸いながら電話してるフリをして、自分の不可解な行動をカモフラージュしているつもりだが…
たぶんさっき立ち止まった時点で既に警戒されているだろう。

 

「・・・しゃあねぇな。」

煙草を橋下に弾きスマホをポケットに放り込んでゆっくりと女性の方に向かう。

もし、これであの女性が逃げる素振りをみせたらそのまま放っておくつもりだ。

……………

…………

……

じわじわと距離を詰めていくが女性と黒い塊どちらもコチラへ視線を向けることは無い。

 

「やべぇな…」

思想とカラダを黒いヤツに乗っ取られている可能性が出てきた。

 

女性との間にヤツを挟むと話ができそうに無いので回り込んで彼女の左側に並んで立つ。

「あの~?」

 

彼女の反応は無い。

代わりに彼女の後頭部付近から横向きにぬぅっとヤツの顔半分が現れ灰色の目玉の様なくぼみがふたつ自分を捉えている。

 

「はーい戻ってこ~い!」バチン!

強めに声をかけ、彼女の目の前で催眠術師の様に両手を鳴らす。

彼女は驚いた様子で上体を起こししっかり見開いた眼で顔を向けた。

「おかえり~。何してたん?」

『へ?あっ、、あの~、こんばんは。誰ですか?』

「ごめんなさいね。近くの温泉に行く途中だけど、アナタが下に飛び込んじゃいそうな感じだったので。……こんばんは。」

 

『こん…ばんゎ…そうですか。…すみません』

「ここで飛んでもこの高さじゃ水泳なみに飛ばないと死なないよ。アチコチ擦りむいて、ズブ濡れになって惨めな思いするだけです」

『いや……そのぉ』

 

「ん~。もしかして、男性の事で悩んでない?ストーカーまではいって無いと思うけど。それかセクハラ」

うつむき気味の彼女はハッと驚いた様子で再度コチラに視線を向けた。

『…なんでわかるの?』

「う~ん…っとね~。まぁ…言いにくいけど、今、アナタの右側におるのね。変なのが」

右や後ろに顔を向け周囲を確かめている。

「視えないか。だけどカラダと心が重かったり、頻繁に強い視線を感じたり、寝ようとしてもかなり寝苦しくないです?」

『ゆっ…幽霊って事ですか?』

「ん~。似てるけどちょっと違うかな、ソイツは…まぁ…〖念〗と言うやつでね。…アナタの事を強く想う方の念が凝縮して悪さしてます。生霊の類だな」

『いきりょう?好きって事?どうすれば治せますか?』

「よかった。自覚があるんだね。コイツの厄介な所はね、原因。つまり…アナタを想っている方は自分の想いがアナタを攻撃しているという自覚がないのよね」

「たぶん、〖好き〗の方の感情が歪んでると思う。〖嫌い〗の感情の方ならイジメとか疎遠とか暴力とか…リアルな攻撃が念より先に来るはずだから」

 

『治し方が知りたいです』

「治し方は…心当たりあるなら、その方の想いに応えてあげる事なんだけど………難しいんでしょ?」

 

『…………はい』

彼女は話し難そうにしている。しばらく無言が続く。

「話さなくて良いよ。んんん………。じゃあ今日は特別に横にいるヤツ、僕が貰って行くわ。」

『えっ!?』

「しばらくはラクになるはず。だけど…根本的な所をどうにかしないとまた同じ事の繰り返しだかんね~」

 

パンパンと両手のホコリを払いながらゆっくりと彼女の右側に回り込みヤツに声をかける。
ヤツは突然話しかけられて驚いたのかクビが捻れて頭部だけがコッチを向いた。
振り向きざまに片手でヤツの首根を握り締め自分の方に引く。

「くぉ~らぁ~っ、変態やろー。さっきは結構ビビらせてくれたじゃねえかぁ~。ちょっと顔かせや~」

ヤツは女性から引き剥がされまいと咄嗟に彼女の髪を掴んだ。

『痛い!アァッ!!』

彼女は橋の手すりにしがみ付き引きずられないよう必死に抵抗している。

このままあまり強くやると彼女の首が危ないか。

「おまっ…オナゴの神聖な髪を掴むとは何様じゃぁ~ッ!こうしてくれるッ!ファイヤーッ!」

首根っこを引きながら身を屈め、
ヤツの股間に空いた方の手を素早く差し込み握り締める。

ヤツは彼女の髪を離し股間を握りしめるコチラの腕をかなり強い力で握りながら足をバタつかせている。

「確保ぉ~ッ!暴れんなって!チミはしばらくワタシの背中で大人しくしときなさい!後でオマエハ電気アンマの刑ッ!!………ヨイショ~!っと」

もがくヤツを頭上に持ち上げ、彼女から数歩離れるとバケツを頭から被る様に体内に取り込んだ。

 

「股間雷神拳引き剥がしからのアルゼンちんバックブリーカー除霊…………(題して)。ね。」

 

『あの………ふざけてないですか?』

彼女にはヤツの姿が終始見えていないのでコチラの一連の動作が不可解に見えたようだ。

 

「ふざけてますよ。つか、どうよお嬢さん。少しはラクになったんじゃない?血色が一気に戻ってきたやん」

 

『………かなり良いです。普通と言うか…久しぶりに普通な感じがします。………腕が。』

彼女はコチラの左腕を気にしている。

腕にはヤツが抵抗した跡がくっきりと残っていた。

「これね…今はまだアドレナリン出てるからそんなに痛くないよ。髪は大丈夫?」

『平気です。…………治してくれてありがとうございました』

「まだこれで終わりじゃないからね。さっきも言ったけど、またコイツは復活すると思う。だから…もう一回仕上げをさせて欲しいが………」

 

『と言いますと?』

 

「背中を叩いて内側に残ってるヤツの残骸を叩き出しとかないとな。ちょっと痛いけど…どうする?復活した際に誘引剤になりかねないわ。」

彼女は少し考え…髪を結い直しながら了承の意を示した。
橋の手すりに両手を付いて立つよう指示し彼女の背中に印(イン)を刻む。

「んじゃいくよ」

『どうぞ!』

 

「ブラ外れたらゴメンネ」

『どうぞ!!』

 

「3・2・1・バン!ね。」

『はやくっ(怒)!』

「歯ぁ食いしばれ!」

『・・・ハイ!』

 

「・・・サにイち」ぶぁンッッ!!!

 

『ヴぅッ!・・っったァ(怒)ゴホッゴホッ…』

 

『…タイミングがおかし過ぎる』

 

「不意打ちですまん。防御線張られると一撃で全部出せない場合があるから」

『そ……ですか。ん…で、出たんですか…全部。』

「ああ…出たよ。スプラッシュ。」

『スプラ……ふざけてないですよね』

 

「……半々。」

 

少しキレ気味の彼女を気にする事無く続ける。

「今アクセサリーか何か付けてない?天然石がついてるヤツが良いけど」

『今は、、無いです』

「だよな。それじゃ…これをやる」

自分の右手にはめているブレスレットを千切り、石をひとつ握りしめ念を込める。

「身代わり石だ。これを大事に持っとけばアナタの身代わりになってくれる。財布やバックにでも入れといてね」

「持ち歩くのが億劫なら醤油皿くらいの白い小皿の上に置いて玄関のキティちゃんの横にでも置いておいても良い」

石を差し出すと彼女は両手を差し出し落とさないよう慎重に受け取った。

 

『いいの?ブレスレット…大事な物なんですよね』

「そうだね。妻にバレないように直しておかないと…たぶん殺される」

 

『じゃあ私が貰うのはまずいで…』

彼女は石を返そうとしたが遮って更に忠告する。

「もうアンタ用に念を込めたから、それはキミの石だよ。他のヤツに絶対それを貸してはいけない。吸い込んだ悪いモノを放出して、貸した相手は不運になる」

「それと、石には容量があってね。悪いモノを限界まで吸い込むと…壊れたり、無くなったりして探しても見つからなくなると思う。それまでに彼にアンタの気持ちや考えをハッキリと言ってあげることだ。」

『わかりました。でも、私…まだ………その…』

「わかってる。さっき背中叩いた時に映像が僕の頭に入ってきた。玄関のキティちゃんもそれでわかったの」

「彼の気持ちも、今剥がしたヤツを取り込んだから、伝わってきて嫌でもわかる」

「彼はたぶんアナタが気にしてる事も全部ひっくるめて理解を示してくれるはずだよ。そうなれば…彼の気持ちが今度はアナタを護る方にはたらいて良い方向に向かうかもね」

『………わかりました。なんか…すみません。いろいろと』

 

「まずは、おいしい物でも食って、しっかり寝て生霊に吸われた生気を回復させてからだね。その為の身代わり石だから」

『ありがとうございます』

 

『あの…剥がした生霊はどうなるんですか?』

「ああ?コイツ?お仕置きして温泉で流す。」

 

『温泉にそんな効果があるんですか?』

「そこの温泉は珍しい温泉でね。龍脈のチカラを含んでて、龍神さんと水神さん、火ノ神さん、山神さんのチカラがコラボ状態でアメイジングな温泉なんよ。浄化にも使えるからちょくちょく使わせてもらってます。アナタもいろいろ疲れたら入り~」

 

「それじゃ…お大事に。カナさん。」

『えっ!?名前までわか………』

驚いた表情で話しだした彼女に軽く頭を下げ振り返ると煙草に火を灯け温泉を目指して歩き出す。
ずっと見送られていたが手を払うように合図を送ると頭を軽くさげ夜闇に消えていった。

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温泉

………………………

…………………

…………

温泉までもう少しだが、、、
ここから徐々に住宅地沿いの坂道は急になり
息もあがってくる。

「オマエら…重めぇんだよ……全く…もう」

「つか、、なんて僕はお人好しなんだ」

「帰りのタクシー代くらい貰えば良かったかな」

「ボランティア………喪黒福造みたいだな」

ダルさを紛らわすために独り言も多くなってしまう。
自身の身体が普通なフラットな状態ならば…
ここまでは疲れないのだが。

 

実は今、先ほどのヤツを含めて3体のオバケを体内に取り込んでいる。
物理的な重さは無いのだが、
あえて例えるなら、
重いストレス3人分に加え自分のストレスで計4人分のストレスを常時負っているような感じである。

取り込んだオバケや念は、強さに比例して背負う時の重さは変わってくる。
修行して自分の容量を鍛えれば取り込める量も増えてラクになるのだが…

 

オバケを攻撃してその場で消し去るor強制的に成仏させる術もあるが、
自分はあまり暴力的な対処法は好きでは無い。

100%悪の塊みたいな…
有無を言わさず消し去った方が良いオバケは少ないし、
そんなヤツと対峙しても今の自分では到底かなわないだろう。

 

…と言うか自分の能力を早く消し去って〖視えない人〗になりたいのが本音である。

…………

………

……

彼女と別れてから特に何も無く、
愚痴を吐きながらではあるが無事に温泉の入口まで辿り着いた。

入口から施設までの最後の坂は更に急であるが
高台の頂上付近なので周りが開けて景色が良い。
遠くに望む3号線のネオンの光を確かめながら随分昇ってきたなと自分を褒めたい気持ちだ。

 

やっと正面玄関がみえた。

久々の煌々とした明かりに目が眩む。
目を細めながら駐車場を見ると30台ほどの駐車スペースに車が4~5台ほど。
近所の徒歩組を合わせてもほぼ貸切状態だろう。

キブンが揚がる。

ピークの時間帯はいつも駐車場待ちが発生するほど客は多く、
浴場内も譲り合いでなかなか良い場所で長く浸かれずゆっくり楽しめない。

 

自動ドアを軽快にくぐり、靴ロッカーのお気に入り番号を探す。
身を屈めないで預けられる高さで、アガる数字は………No7、33、55、77→使用中

「クソッ…考える事は皆だいたい一緒か」

「ならば…今日はSHOHEI君の17でいくか」

サンダルを17番ロッカーに預け、券売機へ向かう。

「大人、ひとり…えーっと、、、480円!?30円あがってるし!」

フロントに入浴券を渡し
靴ロッカーのカギと脱衣ロッカーのカギを交換し脱衣場へ向かうが…
浴場に近付くにつれ、だんだんと不快感が込み上げ帰りたくなる。

背負っているヤツらがこの温泉の神聖なパワーを察知し浄化されまいと抵抗をしているのだ。

 

この感覚は悪いモノに憑かれた際に起こる典型的な症例で、
神社や寺など神聖な場所に行くのが億劫になったり、
助けてくれる親類や霊媒師に敵対心を持ったり会うのを拒否するような思考になってしまう。

 

「無駄じゃ。大人しくしときなさい」

頭の中でヤツらを一喝し、
ヤツらの思考をシャットアウトする。

こちらも夜中に勝手に外出し、
妻にバレると何言われるか…
かなりの危険を犯してわざわざここに来たのである。
少ない小遣いも消費している。
簡単に引き下がる訳にはいかないのだ。

 

準備を整え、カギを手首に装着し浴場へ入ると
お湯の流れる心地よい反響音と湯けむりが全身を心地よく包む。
客は自分を含めて3人。
他はサウナか露天の方にいるのだろう。

洗い場で汗を流し、
他の湯場には目もくれず〖打たせ湯〗に直行する。

滝行ならぬ〖打たせ湯行〗をする為だ。

神さんのチカラが宿るここの湯に打たれると
背負ったヤツらを浄化できてしまう事を数年前に発見し、
それ以来定期的に湯に打たれるようになった。

 

腰掛けて目を閉じ、発射ボタンを押すと約3mくらい上の吹き出し口から1分間勢いよく温泉が落ちてくる。

知り合いのオバケの先生からこれだけは覚えろと言われ強制的に覚えさせられた経をブツブツ唱えながら5~10分、
カラダが軽くなるまでボタンを押してはブツブツを繰り返す。
(たまに凝った部分に当ててマッサージもしている。)

これをやれば大概のヤツは浄化されてカラダから抜けていく。

それでも浄化しきれない強いヤツは、
この後の露天風呂で夜風に当たりながらゆっくり対話しながら浄化するのだ。

 

打たせ湯を終え、温泉水を飲み、露天風呂へ行く。

先ほど取り込んだ生霊がなかなか抜けない。

「ホントに電気アンマの刑を執行するぞ」
と心の中で軽くヤツを脅しながら露天風呂への扉を開ける。

月光と夜風が火照ったカラダを程よく撫で実に爽快だ。

フルチン100%の開放感で外気浴が許されるのは露天風呂だけだろう。

 

露天は禿げたオッサンがひとりだけ、
ベスポジで月の浮かぶ天空を見上げながら四肢を開きリラックスタイム。

自分に気付くと足を閉じ端の方にスライドしてくれた。

軽く会釈し、湯船の2番目に良さげな位置を陣取る。

四肢を開いて岩に頭を置き、息を吐きながら空を見上げると、
オッサンもゆっくりと元の位置にもどり四肢を開き月光浴を楽しみ出した。

 

体勢が落ち着くと頭の中でヤツの言い分に耳をかたむけてやる。

 

ヤツはブツブツと一方的にネガティブな感情を押し付けてくるが、
それを肯定も否定もせずにひたすら聞き専に徹する。

温泉のチカラでだんだんとヤツの話し声が小さくなり数分後には聴こえなくなった。

「はい…終了っと。」

両手に湯をため顔を洗い…周りを見渡せば、
いつの間にかひとりに。

カラダを浮かせ岩を一蹴り、
軽くひと掻きしてベスポジを陣取る。

一通り作業を終えてやっと清々しい気持ちで自分中心の時間を楽しめる。 貴重な癒しの時間だ。

……………

………

程よく湯がまわってきた頃、
奥の戸が開き飲み屋帰りの若そうな連中らの気配がしたので
露天風呂は打ち止め
浴場内のプールでカラダを冷却する事にした。

全裸で行う平泳ぎはなんとも爽快であった。

最後の仕上げは高温湯。
一番神聖なチカラを感じる高温湯で活力をもらい、癒しの時間は終了。

 

瓶のコーヒー牛乳を購入し
サンダルを履き外の喫煙所のベンチで夜景を観ながら温泉の余韻に浸る。

………………

………

……

月が隠れ星空がみえるころ…
好きなあの香水の香りがフワりと香る。

『隣座っていい?』

 

「………どーぞ」

しばらく無言が続く。

 

「飲みたきゃ勝手に」

『やったー。乾杯!』

嬉しそうな声にコチラも牛乳瓶を持ち応える。

『チーン!』

「………牛乳瓶はチーンじゃないだろ」

『フフフッ…そうだね』

 

「んで?………どうよ」

『相変わらず主語がないんだからキミは』

 

「…………ぽめんなさい」

『クックックッ…ウケる。』

『楽しくやってるよ。心配ご無用』

 

「もう何年だ?15年くらい?」

『あれから13年だね』

 

「そうか。いつまでこっち居るん」

 

『もう少し……かな。』

 

「話し相手…まだ見つからんの?」

『いいじゃん別に。元カレのアンタだからアタシもいろいろと話しやすいのさ』

 

「………そうね。んで?本日はどんな御用ですか?」

『別に。顔見に来ただけ』

 

「心配せんでも温泉でちゃんと流したから元気100倍アソパソマソさ」

『フフフッ。いつものアンタだわ』

 

「…………ありがと。」

 

『フフッ。やっとコッチ視てくれたね』

「………人見知りと美人の顔は見れないの知っとるやろが?」

『ハハハ。ですよね~』

 

 

『じゃあ行くわ。コーヒー牛乳ありがと』

 

彼女の去り際にコーヒー牛乳をひとくち飲む。

「うぇっ!?なんじゃこりゃ!甘さ全部持って行きやがった!」

 

去りゆく彼女の後ろ姿は…笑っているのか両肩が小刻みに揺れている。

 

 

スマホを向けシャッターを押す。

 

 

キレイな星空と夜景が映っていた。

 

 

 

「………………帰るか。」

 

〖第1話完〗

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さいごに

航海中…電波もなくヒマすぎて小説みたいなものに挑戦してみました。

初めて書いてみたが…文字で表現するのってなかなか難しいね~( ´•д•` )💦

文才と語彙力の乏しさを自身で絶句………orz

もっと美しい表現やテンポ、読みやすくできるように頑張ってみます。

当て字や空白、漢字をとひらがなにしてみたり…いろいろ自由にやってます。

最後までお付き合いありがとう!(´▽`)

続きはまた今度(読む方が居れば)

ぢゃね~(。・ω・)ノ゙

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